初心者でもわかる!ヘアライン加工の仕組みと使いどころ

金属の基礎
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ヘアライン加工とは?

金属製品の表面に細かな線が連続して入った、落ち着いたツヤのある仕上がりを見かけたことはありませんか?
それが「ヘアライン加工」と呼ばれる処理によって生み出されたものです。

ヘアライン加工は、見た目の美しさだけでなく、傷や指紋を目立ちにくくする実用的な効果も持ち合わせており、家電や建材、アクセサリーに至るまで、さまざまな製品に活用されています。

加工の名前の由来と特徴

ヘアライン加工は、研磨に分類される表面処理の一種で、金属の表面に細く長い直線状の研磨痕(ヘアライン)をつける加工です。

ヘアライン(hairline)」という言葉は「髪の毛のように細い線」を意味しており、名前の通り、繊細な筋目が金属表面に連続して現れることが特徴です。

この加工は主にステンレスやアルミニウムなどの金属素材に施され、見た目に高級感や清潔感を与えるため、家電製品や建材、店舗什器など幅広く利用されています。

ヘアライン加工で得られる効果

ヘアライン加工には、見た目の美しさだけでなく実用的な効果もあります。主なメリットは以下の通りです。

  • 高級感のあるデザイン:
    均一な筋目模様により、製品に洗練された印象を与えます。
  • 指紋や小傷が目立ちにくい:
    鏡面仕上げとは異なり、光沢を抑えた仕上がりのため、使用中の傷や汚れが目立ちにくくなります。
  • 反射防止効果:
    光を乱反射させることでまぶしさを抑える効果があり、照明器具やインテリアに好まれます。

これらの効果により、見た目と機能性を両立できる仕上げ方法として、多くの分野で活用されています。

ヘアライン加工の方法

出典元:ツヤ技研有限会社

加工の方法は大きく分けて、手作業による加工と機械による自動加工の2種類があります。いずれの場合も、以下のような流れで加工が進みます。

  1. 前処理:
    金属表面の油分・ゴミ・酸化皮膜などを除去する工程です。洗浄や脱脂が行われ、均一な仕上がりのために必要な準備段階です。
  2. 粗研磨:
    表面の大きな傷や凹凸を取り除きます。粗めの研磨材を使い、ラインがはっきり出るように土台を整えます。
  3. 本研磨(ヘアライン加工):
    中〜細番手の研磨ベルトや不織布ホイールを使い、一定方向に研磨を施します。このとき、ラインの太さや密度、深さは使用する研磨材や機器の設定により変わります。
  4. 仕上げと清掃:
    加工面の状態を確認し、必要であれば微調整を行います。最後に表面を清掃し、指紋や研磨粉を取り除いて完成です。

ヘアライン加工は、一見シンプルに見えますが、ラインの方向を一定に保つ技術力や、材料ごとの適切な研磨条件の見極めが求められる、奥の深い加工方法です。

ヘアライン加工の注意点

ヘアライン加工には注意すべき点やコスト面での課題も存在します。

  • ヘアラインの方向に注意が必要:
    ヘアラインの筋目は、「使用中につきやすい傷の方向」と揃えることが重要です。
    これにより、傷が筋目と同化し、目立ちにくくなります。
  • 部分的な補修が難しい:
    ヘアライン加工は、均一な模様が特徴であるため、一部に傷や汚れが生じた際の部分的な補修が困難です。
    補修を行う場合、模様を再現するのが難しく、場合によっては全面再加工が必要になることもあります。
  • 加工コストの高さ:
    この加工は専用の工具・機械と技術を要するため、他の表面処理よりもコストが高くなる傾向があります。
    特に大量生産や大面積への加工では、コスト面の検討が重要です。

このように、見た目や機能性に優れる一方で、補修性やコスト面には考慮が必要です。用途や使用環境に応じて、適切に選定することが重要です。

ヘアライン加工が使われる製品例

エスカレーターの板金部分

身近にあるヘアライン加工の例として、エスカレーターの足元にある板金(スカートガード)があります。
この部分は多くの人の視線が集まりやすく、また足やキャリーバッグなどが接触しやすい場所でもあります。

そのため、傷がついても目立ちにくく、見た目の清潔感を保ちやすいというヘアライン加工の特性が大きなメリットとなります。さらに、ステンレス素材と相性がよく、経年劣化にも強いため、公共設備に多く採用されています。

結婚指輪

結婚指輪は毎日身に着けるものであり、生活の中で小さな傷がつきやすい製品です。
そのため、表面仕上げには傷を目立たせにくい工夫が求められます。

一般的には、光沢のある鏡面仕上げが人気ですが、落ち着いた印象を与えつつ、小傷を自然に隠すという観点から、ヘアライン加工が選ばれることもあります。

ヘアライン加工のほかにも、スターダスト加工やサンドブラスト加工といったマットな表面処理が用いられ、実用性とデザイン性を両立する選択肢として人気です。

他の表面処理との違い

ヘアライン加工は見た目や機能性に優れた仕上げ方法として広く使われていますが、他の表面処理との違いを知ることで、用途に応じた最適な選択が可能になります。

バフ研磨との違い

バフ研磨は、フェルトや布製のバフホイールに研磨剤を塗布して金属表面を磨き上げ、鏡面のような光沢仕上げを得る方法です。

一方、ヘアライン加工は、均一な直線状の研磨痕を残すことで、光沢を抑えたマットな質感を実現します。

表面処理表面の見た目傷の目立ちやすさ
ヘアライン加工マットで落ち着いた印象目立ちにくい
バフ研磨鏡のような光沢感目立ちやすい

鏡面仕上げの高級感を重視する場面ではバフ研磨、実用性や落ち着いた美しさを重視する場面ではヘアライン加工が好まれます。

サテン仕上げやブラストとの比較

サテン仕上げは、ヘアライン加工と同様に光沢を抑えたマットな仕上げで、見た目の印象もよく似ています。
ただし、ヘアライン加工が細く長い筋目を一方向に付けるのに対し、サテン仕上げでは短い研磨痕が無方向に近い形で付くのが一般的です(ただし、単一方向に付けるケースもあります)。

一方、ショットブラストは金属表面に砂や金属粒子を吹き付けて微細な凹凸を形成する方法で、ざらついた質感と高い反射抑制効果があります。見た目はヘアラインやサテン仕上げに比べてより工業的で粗い印象になります。

表面処理表面の見た目
ヘアライン加工一方向に細長い筋目
サテン仕上げ短い研磨痕(方向性は様々)
ショットブラスト微細な凹凸を形成

それぞれの加工には適した用途とデザイン上の意図があります。ヘアライン加工は、見た目の統一感と傷の目立ちにくさをバランス良く備えた加工として、装飾性と実用性が両立した場面に最適です。

まとめ

ヘアライン加工は、見た目の美しさと実用性を兼ね備えた優れた仕上げ方法です。

傷が目立ちにくく、上品な質感を演出できることから、家電製品やアクセサリー、公共設備まで幅広く活用されています。

一方で、補修の難しさや加工コストなどの注意点もあります。使用する環境や製品の目的に応じて、他の仕上げ方法と比較しながら、最適な選択をすることが大切です。

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